魚行きて水濁る

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──── 浮遊感に襲われていた。 地に足が着かないような、意識だけが空間を彷徨うような。どうやって心を落ち着かせればいいのか、分からない。 保健室での話合いから、数日が経過していた。 あの直後、杉村と瑞穂先輩が保健室に現れ、話をそのままに富永先生が打ち切ってしまった。 千葉先輩は瑞穂先輩が付き添うかたちで帰って行き、結局クジラさんが誰を庇っているのか、二人が何を隠しているのか、その謎はずっと消化不良のまま私の胸に残っている。 「おーい、生きてますかー?」 背後から使徒が現れた。 人の心を惑わし、愚弄し、妖艶な色気で束縛する天使の皮を被った使徒だ。 「ATフィールド全開。何も聴こえませ───」 「そこの中二病女ッ!」 「いだっ」 後頭部を何かで叩かれる。どこが天使のなっちゃんだ。これじゃあサディスティック奈津美だ。 机に突っ伏した頭をむくっと起こす。仁王立ちしたサディスティック奈津美が不機嫌顔で立っている。 「いつまで続くわけ、その暗~い陰鬱なオーラは」 「来世まで」 「あっそ。じゃあ今世は諦めたって事ね」 「うっ……諦めてないし」 机に頬をつけたまま、奈津美を見上げる。 呆れた様に肩をすくめ、赤いランチバッグを私の隣の机に置いた。 「じゃあ、笑いな。こういう時は無理やりでも笑うのが莉子でしょ」 机を片手で軽々引っ張り、私の机にガツンと乱暴にぶつける。ため息を吐きながら腰を下ろした奈津美が、覗き込むように私を見た。 「莉子がそんなんじゃ、千葉先輩もっと元気無くなるよ?」 やっぱり、奈津美は悪魔のなっちゃんだよ。 こんな時に限って、そんな優しい顔するなんて、ずるい。 「分かってる……」 分かってるけど。 私に出来る事なんて、あるんだろうか。
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