魚行きて水濁る

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───魚住、お前来週の月曜日、保健室に来い あの日の帰り際、私を呼び止めた富永先生。 その表情がどこか頼りない弱々しさに、驚いたのをよく覚えている。 どうして? 何で私? 先生は何を知ってる? 頭の中は疑問と不安で、歪な石ころみたい。湧いて出てくる言葉は沢山あるのに、答えは宙を彷徨っては煙のように消えていく。 跳ぶことしか取り柄の無い私に、何の能力も開花していない私に───何が出来る? 「私にも、頼ってよね」ランチを食べ終えた奈津美が笑いながらそう云った。 馬鹿みたいに一人で突っ走って、手当たり次第ぶつかって、迷子になる私を引き上げてくれるのは、いつも奈津美たった。 私はひとりじゃないんだと、教えてくれる。 いつもポジティブでいられるのも、突っ走れるのも、心のどこかで奈津美という拠り所があるのだと安心しているからだ。 私もいつか、先輩たちにとってそんな風に、なれたらいいのに…… 「あ、魚住!」 一階に下りる階段途中で、上がってくる森山に声をかけられる。 「森山、どうかした?」 「魚住一階に行く?」 「うん、今から富永先生のところに」 「お! ちょっと頼まれて欲しいんだけど、さっき保健室にプリント持ってった時に、備品庫の鍵返しそびれてさ」 森山がポケットから小さな鍵を取り出し、差し出してくる。受け取りながら、 「これ、富永先生に返しとけばいいの?」 私の質問に、森山は「あー、」と何か思い出したように声を上げた。 「そういや三年の保健委員がいたから、その人に渡してくれても───」 「ねぇ! その人って!」 身を乗り出し詰め寄っていた。 気圧された森山が、階段を一段下がる。 「えっ、ま、前に岸田が聞いてきた、ハーフの人だよ」
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