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指先から、冷気が這い上がってくる。
向けられる瞳、紡がれる言葉、そのどれを取っても生気が感じられない。
千葉先輩と彼が言葉を交わしたあの日。
消えてしまったのは、陽だまりみたいな笑顔じゃなくて、本当はもっと大切なモノだったんじゃないのだろうかと思えてならない。
「何で……隠してたの?」
きっと触れてはいけない。
そんな事くらい分かってる。
「僕のこの目はね、呪われてるんだ」
彼の隠してきたものは、きっと単純なものじゃない。それも覚悟している。
「呪われてる?」
「そう。この目は、人を不幸にするんだよ。だからずっと、隠してきた。でも、もうそれも……必要ない」
覚悟して、向き合っているはずなのに、
「必要ないって……どういう───」
「僕の母はね、ずっとこの目に怯えてた。父と同じ青い瞳に。僕を見る度に、亡霊みたいに付きまとう面影にずっと苦しんでたんだ。自分のせいで父が死んでしまったと、毎日泣きながら僕に謝ってた……だけど、それも、もう終わり」
手の震えが止まらない。
彼の領域に踏み込んだ足が、沈んでいく。
終わりって何?
言葉に出そうとするのに、喉の奥で渦を巻いて息が上手く出来ない。
「四日前、母が息を引き取った」
体の内側が引き裂かれそうになる。
遠くを見ていた様な、彼の青く儚い瞳が微かに揺れた。
「ねぇ、莉子ちゃん……」
まるで何も見えていないみたいに。
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