魚行きて水濁る

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「保健室でキミと出会った日、何で僕があんな事言ったか分かる?」 ───まだキミの事は手に入れてないんだね 呼び起こされた疑問を前にしても、私は眉ひとつ動かす事が出来なかった。 「嫌いだからだよ、雅也くんが」 彼の口から吐き出される嫌悪も、溢れ出る憎しみの言葉も、 「ずっと邪魔だった。何でも持ってて、優しくて、完璧で。そんな雅也くんが憎くて仕方なかった。だから雅也くんが大切にしてるキミを、揺さぶって、奪い取ろうと思った」 爛れていく感情も、全ては見せかけ(・・・・)なんだ。 「だけどそれも、もうお終い。ふりだしに戻る事にしたんだ」 背負ってきたものを守るための欺瞞(ぎまん)。停止させた感情。曖昧で靄がかった視界に、君はたったひとり。ひとりぼっちで、沈む覚悟を決めたんだ。 「あの日キミに会わなければ、僕はこの世界からとっくに消えていたはずだったのに。本当、いい迷惑だよ……」 息が出来なくて苦しいのは君だったのに。 勝手に踏み込んで、溺れてしまいそうな愚かな私を、必死に押し上げようとしている。 沢山の嘘を足に絡ませて、沢山の秘密を背負ったまま。自分一人が沈もうとしているんだ。 私と出会ったあの保健室の時から、君の瞳が見ていた空は、その悲しい願いを叶えるために広がっていたのだろうか。 君の願いはただ一つ、 この世界から消えること。 そんな君に……こんなに辛い言葉を喋らせたのは、こんなに悲しい顔をさせたのは、 「邪魔だから、もう二度と、僕にかかわるな」 ───私だった。
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