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「いつも気持ちよさそうに跳ぶなぁって。まるで、空を泳いでるみたいに跳ぶよね」
「み、見てたの!? どこで! もぉーヤダッ」
気恥ずかしさに、カーテンをシャッと閉める。カーテン越しにまた笑い声が漏れ聴こえた。
あんな汚いフォームなのに、高さだってまだまだなのに。泳ぐどころか、むしろ溺れてるよ。
「ごめん、よく見えちゃうからつい」
「見えても見ちゃだめ!」
「それは難しいなぁ」
一体どこで見ていたのか。
彼の笑い声を聴きながら、窓の外に目を向ける。保健室からだと植込みが邪魔で、グラウンドは殆ど見えない。
教室から見えたとすれば、グラウンドに面した南校舎だから、一年か、同学年てことになる。
でも、こんなに綺麗な人、いたっけ?
すると笑いを堪えながら、カーテンの隙間から手がスッと入る。千葉先輩とは真反対の、白くて柔らかそうな手。でも関節はしっかり骨張ってて、男らしさを感じさせる。
「開けていい?」
一瞬、心臓がドクリと跳ねる。
「えっ」
なんか、その台詞はドキドキする。
「ベッド脇の棚に、シーツ片付けたいんだけど」
あぁ、全然。ドキドキしません。
「どうぞどうぞ」
白い手がカーテンを掴みスライドする。
右手にシーツを抱えて、「ごめんね」と少年みたいにはにかみながら、ベッド脇の棚の前でしゃがみ込む。
一枚一枚丁寧に、棚の中にシーツを片付けながら、
「キミは雅也くんの彼女?」
意味が分からなくて首を傾げた。
「雅也くんって……誰?」
「千葉雅也、同じ高飛びでしょ?」
千葉先輩……そう言えば、確かそんな名前だったな。
「そんなっ、恐れ多いよ。 千葉先輩は神の領域だから、私みたいな下人が相手にして貰える存在じゃないし」
「あはは、神様か。確かに言えてる。雅也くんは何でも出来るし、何でも持ってるもんね。でも……」
私の祖先にイタコはいない。親戚に占い師もいない。どこかの血筋から受け継がれた、特殊な能力も未だ開花してない。
でも、もしも今、何かの能力が目覚めるとしたら。
「まだキミのことは、手に入れてないんだね」
心の声を読む力が、本気で欲しいと切に願う。
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