119人が本棚に入れています
本棚に追加
授業が終わり、昼休みのチャイムが頭上で響く。教室内が一気に騒々しさで包まれ、奈津美がいつもの様に隣の席に腰を下ろした。
赤いランチバッグから、二段の弁当箱をいそいそと取り出している。
「よく毎日作るよね、性格は悪魔だけど、きっと良い奥さんになりそうだよ。奈津美は」
奈津美は両親が共働きで、毎日早起きして弟と自分の弁当を作っている。こういう面倒見の良い所なんて、本当心から尊敬してしまう。
「おい。悪魔って何よ。これでも〝天使のなっちゃん〟って言われてるんだからね」
どこの誰にだ?
奈津美の戯言に目を眇めながら、私も母お手製弁当の蓋を開ける。
「うげ、何これ」
蓋を開けて、一瞬戸惑う。だし巻き卵が弁当箱の半分を占めていた。
魚住家一の呑気者である母は、近頃深夜に再放送される韓流ドラマにどっぷりハマっている。おかげで寝坊しては、こうして出し巻きオンリー弁当が定番になりつつある、何ともとほほな母なのだ。
「ははーん。天使の私を悪魔とか言うからバチが当たったな」
奈津美が不敵な笑みを浮かべ、弁当箱を覗き込んでくる。
「天使はそんな意地悪な顔で笑わないって……あ、そうそう」
口に運んだだし巻き卵を飲み込んで、奈津美に顔をずいと寄せる。
「天使といえばさ、同じ学年の保健委員にさ、ハーフの男子っていたっけ?」
なぜか小声になっていた。
なんとなく、昨日の出来事が夢うつつな気がするせいなのか。
「ハーフ? 顔の濃い男子はいるけど、ハーフではないなぁ。別の学年じゃないの?」
じゃあやっぱり、一年か?
いや、それにしては落ち着いていたような。
弁当の隅に転がる小さな唐揚げを最後に残し、プチトマトを頬張っていると、森山が通りかかった。
「あ、ちょっと!」奈津美が呼び止める。
「なに?」
そういえばこの男子、二年の保健委員だ。
最初のコメントを投稿しよう!