セージ、タイム、レモングラス

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セージ、タイム、レモングラス

「いつもの、頂きに参りました」 薄茶色の前髪で目元を隠し、少年が藤色のドアをノックした。乾いた木と、頼り無い骨の音。不安定な音。それが控えめに二回と、一回。男はこんなノックをする人間を一人しか知らない。 「どうぞ、入って」 男は確認するまでもなく応えた。温厚そうなその声を聞いて、少年は静かに部屋の中へと入ってくる。扉を極めて慎重に閉めて、ただでさえ細く小さな肩を、さらに丸めるようにして佇んでいる。男には、この少年がいつだってこの空間や、世界のどこにも自分の存在が許されていないのだと感じているように見えて、それが哀しかった。
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