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そして少年は出て行った。調合師は訪問者に忠実でなければならない。その誓いを破ることの意味を男は今の今まで知らなかった。彼の罪を、代わりに背負おうと思っていた。彼はまだ若く、美しいのだから。過去に囚われ、その一生をかけて自分を罰し続ける姿なんて似合わない。そう思っていた。それに比べて自分は、自分の方が、ずっとそれに相応しいと。そう思った。若くて美しい彼には、輝かしい未来があるべきなのだと。そう信じた。そして自分の調合で、彼がこれから忘れる罪を、調合師が守るべきたった一つの誓いを破ることで背負い続けようと思っていた。しかしそんな単純なことではなかったのだ。その罪でさえも、彼の一部だった。そしてその罪から産まれた苦しみも、痛みも全て。それらは如何なる者であっても。それを彼が望まない限りは、忘れさせ、取り除いていいものでは決してなかった。たとえそれで彼が死んでしまったとしても。その終わりまで彼は彼であり続けることができた。男は気付いた。これから自分が背負うのは、彼が忘れる罪でなく、彼を殺した罪なのだ。 あの袋を、渡してはいけなかった。
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