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「せめてレモングラスを柑橘系の、そうだなオレンジピールとかにしたら良いのに。ただでさえ基本のハーブにはマロウブルーが入っているんだよ。本来なら癒してくれるはずだけど。青は不安定だから、先生の調合だと癒しとは逆の働きをしてしまう気がするんだけど」
訪問者のいない部屋の中で少年はカウンターの上に両肘を置いて頬杖をついている。
「そうだね。ちゃんと勉強してるみたいで感心した」
「僕の先生は優しいからね」
そう言って笑いかけてくる少年を見て、男は込み上げてくる感情を誤魔化すように、彼の頭をくしゃりと撫でる。すると少年は「早く僕にも模様が浮かんでこないかなあ。先生のみたいに」と言って自分の腕をぴんと伸ばして掲げてみせた。自分という人間は彼の評価に値しない。そのことを彼は覚えていられない。この調合はかつて彼が望んだものだということも、自分があの日いつものだと言って渡した袋の中身のことも。彼は何ひとつ覚えていないのだから。
「だけど僕にはこの調合で合っているんだよ」
男は諭すようにそう言った。そして「これ、袋に詰めてくれるかな」と、いくつかのハーブと袋を差し出した。少年は「はあい」と間延びした返事をしてそれらを受け取った。
「先生はどうしていつも長袖を着て模様を隠すの?格好良いのに。それに僕、実は先生の模様を見たことがあるんだけど他の調合師の倍はあるよね。もっと見せるべきだよ」
「あれは」
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