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翌朝、彩花は午前中から石田病院の産婦人科に行った。
朝食を食べながら二人とも言葉にして言うことはなかったが、目を合わせては微笑む。
それを目の前で見つめているお母さん。
「なんか二人とも嬉しそうやね」
お母さんは大好きな白菜の漬物を口に運びながら目を細めてわたしを見た。
俺が長年探して来た幸せのひとコマがそこにはあった。
夕べは海からの帰り道は俺が運転して彩花は助手席でずぅと自分のお腹をさすりながら子供の名前を言いあってた。
ーー何がいい?クミは。
ーーまだどっちか分かんねえじゃん。
ーーじゃ男の子だったら?
ーーそうだなあ。陸は?空はもういるから。
ーーそれもいいかも。空に陸ね。
ーーじゃあ女の子だったら?彩花は何が良い?
ーーユイカは?私たち家族を結びつけてくれる花。
ーー彩花の花をとってね。良いかも。
俺の左手はそっと彩花の手を包んだ。その手をそっと両手で包むとゆっくりと時間をかけて自分の頬まで持ち上げ自分の右頬に当てた。
ーー俺の左手は彩花の頬の上で温かいぬくもりをしっかりと感じたんだ。
あの温もりは死ぬまで忘れない。忘れたくない。そう想った。
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