8. 二人の赤ちゃん

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3021f33c-cd23-46b3-8f0d-dd14edeb00af 決戦の日の翌日の昼過ぎ 空は彩花の部屋にいた。 その日、空の受験はなく 昼前には彩花の部屋でずっと 彩花を見守っていた。 この日は日本列島を この冬一番の最強寒波が襲い この福岡でも氷点下になりそうな勢いで 気温は下がっていた。 外は10センチ近くの雪が 積もろうとしていて 福岡では滅多に見られる光景ではなかった。 そしてみんなの心の中にも静かに… そう…人には聞こえないほどの 無音の涙の雪が降り積もろうとしていた。 空は彩花が眠るベッドに背をもたれ 右手ではスマホをいじるだけの時間。 空にもどうしていいのか見当もつかず 視線はスマホを見てはいても 頭の中はどこか別の場所を彷徨(さまよ)う。 彩花はというと昨夜からずっと布団の中に潜り、 背を丸めた姿勢のまま 心までをも覆い 泣きやむことはなかった。 「彩花?」 「…」 「どうする?赤ちゃん。」 「…」 「やっぱ産みたかよね?」 「う…ん。」 「そっかあ…そうよね。女やもんね、うったち。」 「大好きな人の赤ちゃん  産みたいもんね。うん…。」 空も自分を彩花とクミに重ねていたし、 昨夜のクミの言葉が胸の中で響いていた。 どちらの気持ちもわかるだけに空も辛かった。 部屋の大きな窓を伝い 外の冷たすぎる空気が伝わる午後、 まだ今でも降り積もる雪を 窓のカーテンの隙間から覗いていた。
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