6. 父の死と拓海との別れ

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daa795ea-82d5-4d0e-9e2d-85185ab1509d クミとの思い出を 拾い集めるだけの時間の中で いつの間にか眠っていた。 ーー一体何をしに こんな遠いヨーロッパの地まで 来たんだろう? 新婚旅行先を決めたのは夫。 夫というより決めたのは 夫の女の方だろう。 ーーどうせ行くんならアタシ、パリが良いな。 でもアタシがこんなん決めてよかと? ーーよかさ。 ただ石田病院長の顔を 立てるだけのことなんだから。 パリでしたことと言えば、 ルーブルに行ってシャンゼリゼ通りで みんなのお土産を買って、 ホテルの近くのレストランで 二回食事をしたくらい。 しかも旦那もいない一人だけで。 インスタにあげたのも一回だけだし。 夫はどうせあの女のところに 入り(びた)っているのだから、 わたしが一人ぼっちなのは ある意味当然のこと。 どれだけクミに会いたくても、 声が聞きたくても、 抱きしめてほしくても… それはただのわがまま。 高校を卒業して大学も遠くの広島に行って いつの間にか誰とも連絡がとれなくなり 行方不明になって12年。 それでも忘れられないのはわたしの勝手。 そして目を覚ましたのは朝の6時。 お母さんからの電話でだった。 電話口のお母さんの声は泣いていた。 「彩花、すぐに帰って来て! お父さんが危篤と!すぐに」と。 「なんでよ?二ヶ月前はまだ 余命半年って言われたんやろ? なんでなん?!」 とわたしもパニクって見せた。 電話を切り荷物をバッグにつめ タクシーを呼び急いで空港に向かう。 日本行きの11時の便がとれ、 夫にはメールでそのことを伝え日本へと急ぐ。
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