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獣人少女を救った話
「…………」
「フーッ……!」
――思い切り噛み付かれてしまった左手。鋭く尖っていた歯が容赦なく突き刺さり、決して浅くは無い怪我を負ってしまった。
目の前には、敵意を剥き出しにして此方を睨み付ける少女の姿。ボロボロの衣服にぎらついた瞳。尾を逆立たせて警戒を露にするその姿は、しかし足腰が立たないのか酷く脆く見えた。
「言葉もろくに覚えてないようだしな……まぁ、最初から信じてもらおうなんて思ってないさ」
流れ出してきた血を舐める。慣れた味だ。
とりあえず自分の怪我はどうでもいいとして、優先すべきは彼女の怪我をどうにかしなければならない。
獣人である彼女の体力は、普通の人よりも優れてはいる。しかし、それにも限界はあるだろう。ぼろ切れに隠された身体は痩せ細っており、青アザや傷を差し引いても健康的とは言い難い。
「さて……とにかくその邪魔なものだけでも外させてくれな」
先程からじゃらじゃらと音を立てている足枷の鎖。その先についていたであろう重りの鉄球はここに来るまでに排除されている。しかし、後ろ手にされた手錠と首輪はそのままでは何かと問題がある。
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