act.02

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 社内の円滑な運営、今後の会社の方針、営業計画、その他有能な人物のヘッドハンティングなど、あらゆる面でミラーズ社に貢献しているのは、社長秘書室首席秘書のジェームズ・ウォレスであった。  社長がいつものごとく雲隠れした時は副社長のビル・スミスが最終判断を下すことになっているのだが、スミスは必ずウォレスの判断をそれに取り入れた。  ミラーズ社の社員は誰もが、ジェームズ・ウォレスの動向に常に注目し、彼の指示を待った。  社長秘書という肩書きは、あくまで肩書きに過ぎず、ミラーズ社を実際切り盛りしているのは、明らかにジム・ウォレスであった。   ミラーズ社に勤め始める新入社員がまず最初に持つ疑問は、この表舞台に一切立とうとしない才能の固まりのような男が、なぜ社長秘書なんて肩書きで働いているのか、ということだ。  大抵その疑問は、社長はそれほどまでしてウォレスを手元に置いておきたいのだろう、ということで納得するしかなかった。  実際社長のスケジュール管理をしているのは、社長秘書室次席のエリザベス・カーターであるし、なんとウォレスには、ウォレスのスケジュールをフォローする彼専用のアシスタント ── つまり秘書の秘書だ ── がつけられているのだ。  だがこの事実は、社外には殆ど知られていない。  ミラーズ社と取引のあるごく限られた範囲の人間だけが、ウォレスの名に脅威を感じているのだった。     
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