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ウォレスのオフィスは、コの字型に並ぶ3つの建物に囲まれた中庭が望める中央ビルの最上階にある。
むろん社長室のすぐ隣にあり、廊下に出なくても社長室に入れるように、オーク材の重厚なドアで2室は結ばれていた。
「すみません、ウォレスさん。お話があります」
短いノックの後、秘書室長室に企画管理部のマーサーが入ってきたので、ジェームズ・ウォレスは電話の相手に「また後で電話をする」と断って電話を切り、手元の書類から目を上げた。
性急なノックの音から想像すると、あまりよい話ではないらしい。
案の定、ウォレスが上げた目線の先には、そばかす顔のマーサーの苦虫を噛んだかのような表情があった。
「すみません、あの・・・」
やたら早口にそう切り出すマーサーに、ウォレスは人差し指を立てて見せた。
それを見てマーサーは口を噤む。
ウォレスはその指でマーサーに目の前の椅子に座るように指示すると、デスクの後ろのカウンターにおいてある水差しからグラスに水を注ぎ、それをマーサーに手渡した。マーサーは少しそれを口に含むと、大きな深呼吸をする。
「 ── すみません、ウォレスさん」
先ほどよりは幾分落ちついた声で三度マーサーが謝ると、ウォレスは唇の端だけ上げて微笑んで見せた。
「さぁ、話を聞こうか」
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