act.02

10/19
1361人が本棚に入れています
本棚に追加
/1294ページ
「バーンズはなかなかいい部下を育てているな。 ── マーサー、すまないがストラス社の打ち合わせをあと30分引き延ばしてくれないか。ストラス社には現在、W&PC社が粉をかけているとの情報がある。ストラス社が急に態度を翻したのはそのせいだ。W&PC社は来年の1月にポリテノックと同様のタイプの素材を使用した商品を発売させる予定らしい。 ── 勿論、ポリテノックの性能には低く及ばないものらしいが。W&PC社としては、新商品発売後に他社がそれ以上の性能を持った商品を発売するのは、当然おもしろくないことだ。計画がぽしゃるようにストラス社を買収したあげく、その開発データも頂戴しようというところだろう」  ウォレスが淀みなく言ったその言葉に、マーサーは開いた口が塞がらなかった。  ── いつの間にそんな情報を・・・。  マーサーは何も口に出せずにいたが、その表情は言葉より雄弁に語っていたのだろう。ウォレスがマーサーを見て、今度は明らかに破笑してみせた。 「私も今さっき知ったばかりだよ。このことがもっと早くわかっていたのなら、バーンズにも忠告できた」  そう言ってウォレスは、手元の資料をマーサーに見せた。  その書類には、ストラス社周辺の動きが事細かに調査してあった。それにしてもよく調べてある。これにはマーサーも舌を巻いた。  そんなマーサーを余所に、ウォレスは続ける。 「この問題は、いち早く情報を収集できなかった私のミスでもある。いいか、マーサー。私が打ち合わせ室に現れるまで、絶対に相手を帰すな。そしてバーンズに『下手には出るな』と伝えてくれ。あとは私が何とかするとバーンズに言うだけでいい。社長とビルには、私から話を通しておく。おそらく社長もビルも、今回の処理を私に一任することで承諾がもらえるはずだ」 「はい」  マーサーは、急に溺れていた海から引き上げられたかのような感覚に襲われた。     
/1294ページ

最初のコメントを投稿しよう!