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そういうとアフガンは「誘拐? バァさんを誘拐してどうすんだよ」とあきれたようにいうので、オレは得意げにいってやったのだ。
「いいか、オレが人間の声色で身代金を要求する。現金はボストンバッグにつめさせるんだ。指定の場所にもってこさせ、見張りの目をかいくぐり、アフガンがかっさらえばうまく人間を出し抜けそうじゃないか。まさか犬がくるとは思わないだろ」
「テレビドラマみたいな話だな」
「バァさんもテレビをよく見るのか?」
「ああ、ひまつぶしにはもってこいだよ」
ペットショップの店主も、客が来ないあいだ、ひまつぶしによくテレビを見ていた。
午後になると、人殺しとか人さらいとか不倫のもつれだとか、てんやわんやの刑事ドラマを必ず見てオレに言葉を教え込んだんだ。
『ケーサツダ。テヲアゲロ!』とか『ケージサン、ワタシガヤリマシタ』とかね。
サービスで客にそういうと、すごくよろこんでもらえるのだ。
ともあれ、誘拐となると身代金を要求する相手が必要になる。
時間つぶしにハトにパンくずをあたえているバァさんを横目で見つつ、アフガンにひっそりと聞いた。
「バァさんには家族はいるのか?」
「バァさんは一人暮らしだけど、息子がひとりいる」
「じゃあ、そいつに金をせびろう」
「それはいい考えだ。ちょっとくらい困らせてやってもいい」
「いやなヤツか?」
「バァさんのことをほったらかしだからな。その息子は再婚して幸せにやってるんだ。相手もまた再婚でね。バァさんの家には奥さんが連れいていた子供がひとりで遊びに来るくらいだ」
「へぇ。変わった関係だな」
「血はつながってないけど、バァさんにとってはかわいい孫娘だ。笑顔を見てれば大歓迎ってことがわかるよ」
そういってアフガンは目を細めたように見えた。
いや、ただ暑さにへばってるだけかもしれないが。
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