小説家さんとバンドマンくんのお泊り

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 ど、どうしよう。  焦って周りを見回すが大人が隠れられるような場所など無いし、そもそも隠れてどうするという話だ。でも、とりあえず大河さんがお風呂から戻ってきたときに立っていたらおかしいだろう。  不自然のないように本棚の前でしゃがんで棚を眺めているようによそおうとぺたぺたと床を素足で歩く足音が近付いてきて背後で止まる。 「フミさん、緊張しっぱなしじゃ体に悪いよ」 「べ、別に緊張なんか、」  返事をしながら振り返ると思ったより彼の顔が近くにあったせいで尻もちをついてしまう。 「ま、前髪は、いつもの前髪はどうしたんですか」 「前が見えない訳じゃないんだけど、よく見えたほうがいいから」  よく見えたらって何が?いつもだったらすぐにそう問い返せるのだけれど距離も近いし大河さんの目元を見るのは初めてで、恥ずかしくなってしまう。 「怖い?」 「怖くは、ないですけど。大河さん、目つき鋭かったんですね」 「前髪短いときのほうがよく職質受けてた」 「そ、そうなんですか」  彼の顔をまっすぐ見れないままそう答えて、あぁ、今までは目元が見えなかったから平然としていられたのだなということに気付く。 「あの、本当に」  するんですか?心の中で何度も繰り返してきた問いかけを口にしようとすると膝の下と背中を支えて体を持ち上げられ、ベットの上に寝かされる。 「え、えぇと、その」  上を向くと大河さんと目が合って、おろおろと視線を壁のほうに向けるととぎしり、とベットがきしむ音がして彼が私にまたがるようにベットにあがって、 「心の準備しといてねって言ったのに」  と不思議そうに言う。 「そう、なんですけど。経験が無いんですからその準備の仕方が分かりません」 「そうなんだ」  その返事と同時に彼の手が顔を挟むように両脇に置かれて壁を向いていた視界は彼の腕で埋まる。
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