真っ白い息を吐いて

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 バイトの時間までは、まだ余裕がある。再び布団に潜り込み寝がえりをうと、目の前で唯一の友達であるギターが静かに寝ていた。    昨日の夜、日課である路上ライブをしていた時だ。  いつものように自分で作った歌を歌っていると、同い年くらいの男が真剣な顔をして俺の歌をきいてくれていた。  周りには飲み会帰りのサラリーマンや、バカ騒ぎする学生。客引きをしているスーツ姿の男たち。  そんな中でも両目をつむって、たまに頷くようなしぐさをし、真剣に俺の歌を聞いてくれている男に、俺は少なからず親近感を覚えた。いや…正直本当に嬉しかった。  いつも通り過ぎる人は、俺の事を見て見ぬふりをするか、たまに酔っ払いが絡んだりしてくるぐらいだったからだ。  演奏を終えてギターをケースに戻そうとした時、さっきの男が話しかけてきた。 「さっきの演奏、なんていうか凄い独創的で…とにかくよかったです」  そう言って、男が握手を求めてきた。そして着ていたコートの胸元から、一枚の紙を取り出して差し出す。 「良かったらここに連絡してください」 「……」  俺が言葉に詰まっていると、その男は少し手を上げてそのまま去っていった。    明日は雨が降るのだろうか、少し湿った空気の中を俺は白い息を吐きだしながら走って家に帰る。こんな気持ちは、初めてこのギターを手にした時以来だった。  なんだか無性に走りたい気分で、不思議と何でも上手くいくような気分で、とにかく俺は興奮していたのだ。 こんなことってあるのか―――  とにかく今は、すぐにでも家に帰って電話したい。それで、今まで作った歌の話をして、もしかしたらこのまま契約結んじゃったりなんかして。  目が覚めると、布団の中でギターを抱きしめていた事に気付く。  机を見るとカレンダーの横に、昨日男からもらった紙が置いてあった。  あんなに嬉しかったのに。電話が繋がった先は中華料理屋だった。あの男の嫌がらせだったのだ。
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