星降る夜と、願い事

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今夜、星を見に行こう。 この冷え込む冬の折、幼馴染からのそんな誘いは突飛ともいえた。 けれど冷え込む折であるからの誘いでもあった。 きんと冷たい冬の空。星もはっきりと見えるから。 今夜はふたご座流星群が見られると、数日前から話題になっていた。テレビのニュースだけでなく、緑葉(ろくは)の学校でも同じことであった。 なにしろ女子校なのである。そういう話は盛り上がって当然。 とはいえ、天体観測なんてことに興味を覚える女子は僅かだろう。目的は『意中の相手と星を見る』ことであったり、『星に片想いの成就をお願いする』ことであったりが大半。 彼氏のいる子は「一緒に見に行くんだ」なんて嬉し気に言っていたし、そうでない子も友達同士で行ってお願い事をしようねなんて計画があったりもする。 けれど緑葉は特にそのようなものに乗ることはなかった。星にお願いなんて、という気持ちがあったので。 だって、流れ星に願いをなんて幼い頃からもう何度もしている。お願い事は「クリスマスに欲しいおもちゃをもらえますように」だったり「バレエの発表会でいい役がもらえますように」だったりした。 けれどそのひとつだって叶ったためしはない。クリスマスプレゼントはまったく違うものをプレゼントされたし、バレエの発表会は結局脇役で終わってしまった。結局、お星さまに効果なんて無いのだ。 緑葉はあまり占いやらおまじないが好きでない性格でもあった。幼い頃は今よりは純粋だったから、友達に提案されるがままにそういうこともしてみたのだけど、だいぶ成長して大人を目前とした今では、それより自分で行動したほうがずっと確かだと思っている。 だと思っているのだけど……今、気になっていることに関してはあまり行動的になれないのであった。だからその日の夕方そういう誘いをされたときは、降ってわいた僥倖(ぎょうこう)でしかなかったのである。
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