老人と鹿

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 相変わらずの立派なツノに大きな体。凛としたたたずまい。 「よぅ、久しぶり。今度は通してくれるんだろ?」  老人は気安く挨拶した。  声に出さなくても鹿に聞こえている、とわかる。  そういや、テレパシーとか言うんだっけなと老人は思い出した。 「ん……?」  鹿へと近くにつれ、老人は違和感を抱いた。  何がおかしいとはっきりは言えないが……  鹿が語りかけてきた。 『いつぞやはどうも……。今度はどうぞお通りください』 「そうか、おぼえててくれたかぁ」  老人はやけにうれしくなった。つい、饒舌になる。 「いやぁ、ようやくドラ息子も一人前になったもんだからよ、さすがにそろそろ止まってもいいかなぁなんて俺の心臓もホッとしたのかもしれねぇよなぁ」  老人がそう言うと、鹿は一瞬、目を伏せた。 「そういや、あんときの子鹿は大きくなったかい。あんたに似てきっと…… !」  老人は絶句した。  大きく立派な鹿の脇に、もう一匹……鹿が、赤い花を寝床にするようにして横たわっていた。  苦しそうな荒い息。優雅だった毛並みは少し色あせている。大きなツノはしわしわにしなび、今にも折れそうだ。 「もしかして……」  この間とまるで変わらないような様子の大鹿と、横たわった老鹿。     
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