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老人は彼らを交互に見、再び息を詰まらせた。
「そうか……」
老人はそっと、老鹿の背をなぜた。
「あんとき、思ったよ。ああ、きっとこの先に天国があるんだろうなってさ。死ぬときゃこの景色を見るんだなぁって。死ぬときゃ、きっとまたおめぇさんに逢えるんだなぁ、って。……逢えて良かったよ」
老鹿がうっすらと目を開けた。
アーモンドのような目は相変わらず美しかったが白く濁りがちで、長いまつ毛には白髪が混じっていた。
『お久しぶりです。こんな姿ですみません。挨拶もろくにできずに……』
「何言ってんだ、いいってことよ……」
老人はまるで旧友を相手にするかのように背中をなぜ続けた。
「お互い、苦労したな」
『……一緒に、行っていただけますか』
「……いいのか? で、でもよ……」
老人が躊躇していると、老鹿に代わり大鹿が……老人が『昔の彼』と見間違えるほどに育った彼が、
『父もちょうど……その時、なのです』
「……そうだったのかい。お仲間がいて心強ぇや。ご一緒させてもらうぜ」
よろよろと立ち上がる老鹿。老人は彼を脇から支えた。
大鹿は前を見据えたまま、言った。
『世話をかけます……私はここを動けないもので』
「ああ、しっかりやれよ」
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