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老人と鹿
「気がつくとよ、目の前にそりゃあ綺麗な階段があってな。年季の入った石段の周りに見たこともねぇキラキラした草やら花やらが生い茂ってて、手入れなんてされてないふうなんだけど荒れ果ててるってのじゃねえのよ。ああこれが自然の風景なんだなってさ。石段は延々と続いててパッと見上げただけでも数十段、いや百段以上あるってわかる。これからてっぺんまでのぼってくってのも何となくわかっててさ、一歩一歩のぼってくんだけど、ウンザリなんて全然しねぇのよ。霞がかかってててっぺんは見えねぇけど、むしろワクワクしてんの。花から漂ってくるいい匂い嗅ぎながら階段のぼってってさ、ほいでも全然、足も痛くならねぇわ息もきれねぇわ。うれしくってよぅ……」
老人はベッドに横たわっていた。頬はわずかに紅潮し饒舌に語っている。ついさっきまで数秒間、心臓が止まっていたとは思えないほど元気に。
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