白の追憶

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レラが、こちらを向いていないことを確認すると、おもむろにラエドは、雪をかき集めはじめた。手袋をしているとはいえ、冷たさが編み目越しに伝ってくる。でも、その冷たさを感じないほど、少しでも喜ばせたい気持ちの方がずっと勝っていた。 「はい、いいよ! こっちを向いて」 ほどなくしてラエドに促され、振り向いたレラの目の前には、小さな雪だるまが形づくられていた。 「まあ、かわいい!」 「即席だけどね」 「ううん、その気持ちが嬉しいの」 僕らの心のなかでは、この雪だるまは、決して溶けることはないだろう。心で押されたシャッターは、写真よりも鮮やかに思い出を残す。 そして僕は、眩い君の笑顔に向けても、心のシャッターを切った。 僕は、こんな思い出を積み重ねるために、生まれてきたんじゃないか。こういう強く心動かされる瞬間に出会ったとき、そんなことを心から思ったりするんだ。 fin.
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