ときわたり

28/37
前へ
/630ページ
次へ
「フローラさん、失礼します」 「兄ちゃん、いる?」  続いて静かに入ってきたのは、エリックとトウガ。扉を開けたエリックの真後ろから、トウガがひょこっと顔を出していた。それを受けて、レオンも身を乗り出す。フィルとイライザがほとんど同時に道を開けたので、トウガが会釈しながらその中心を通った。 「トウガ君」 「兄ちゃん、大丈夫?」 「大丈夫だよ。本当に腕だけなんだから」 「でも、左は利き腕だろ」 「右でも剣は取れるようにしてるし」 「そういう問題じゃなくて!」 「冗談だよ。ちゃんと処置してもらってるから、すぐ治るさ」  言葉の返し方がタツキ君みたい、とフローラがくすくす笑う。フィルやイライザも、懐かしいと目を細めていたが、トウガの方は、笑い事じゃないですと少しむくれていた。 「トウガ。お前、そんなこと言いに来たわけじゃねえだろ」  エリックが仏頂面で腕を組む。 「挨拶に来たんだろ」 「ああ、そうそう」  エリックに諭されて、トウガも改めてレオンに向き直った。 「おれ、水の国に行ってくる」 「ヴィクトルに会うんだね」 「雰囲気的にさ。今までみたいなお忍びじゃなくて、ちゃんと王子として行かないといけないみたいなんだ。慣れないけど、頑張ってくるよ」
/630ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加