ときわたり

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「煙に巻かずに?」  タツキは本棚からひょいと飛び降りてくると、今度は窓辺に座った。この間、空気が動くだけで音が全くしないのが、彼が魂のみの存在である証だ。 「普段から巻いてないけど」 「嘘……」 「まあいいや。何が聞きたいの?」 「それはもう、いろんなことです!」  シェリーも、同じく窓際にあるベッドにぴょんと飛び乗った。そのまま、少し高いところにいるタツキを見上げている格好だ。 「……ありすぎて、何から聞けばいいか分かりません」 「何それ。死者と話すのは慣れてるだろー?」 「うう……えっと」  カラカラ笑い飛ばす彼のペースに巻き込まれては駄目だ。シェリーは顔をしかめながら、必死に言葉を絞り出す。 「ど、どうして……こんなことに」 「あれ、そこから聞いてない? オレ、ずっと昔に諸事情でカミサマと約束しててね。ある目的を果たしたら、とっとと死んどかないといけなかったんだよ。それをこっちの事情で先延ばしにしてたんだけど、いい加減カミサマがキレそうだったから、潮時かなと思って実行したの」 「諸事情……?」 「前世の記憶絡みでいろいろあったんだよ。でも、一回死んどけば、カミサマがもうそれ以上追えないのは分かってたからさ。頃合いを見て戻ろうかなあって思ってるの。怒る?」 「怒れないです……」 「禁忌なのに? 立場的に止めないとまずいんじゃないの?」 「だって、止めちゃったら」  止めたときのことなんて、シェリーは考えたくもない。涙が滲んでくるのを必死で堪える。 「……私は神じゃないですから、人間に肩入れしても良いんです」
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