ときわたり

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 鬼の形相をしたフィルを真顔であしらいながら、トビアスは視線を上にやる。 「何となく、なんですけどね」 「おお」 「タツキさんの感覚が抜けた気がしました」 「感覚が抜ける?」  フィルは思いきり眉を潜めた。 「そんなの分かるもんなのか?」 「だから何となくです。こう、ヒューッと」 「それで、お前自身に何か影響は」 「特にありませんね」  トビアスは首を捻る。 「あの人、やたらいろんな知識を持っていたので、それを俺が借りてるような感覚があったんですよ、今まではね。頭の中に図書館があった感じって言うんでしょうか。そのときに学んだことは、俺自身がまだ覚えてます。ただ、今後はもうその図書館は使えないなあ、と」 「……」 「フィルさん」 「何だよ」 「難しい顔……絶望的に似合いませんよ」 「何なんだお前はさっきから! おれをどんだけ馬鹿だと思ってんだ! 上司にケンカ売るために生きてんのか!?」 「そんなことないですけど、見ると笑っちゃうんす。まあ、一応何考えてたか聞いてもいいすか」
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