るりのおうじさま

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「まあまあ」  モールが笑いを噛み殺す。懐かしいなあ、と目を細めるさまは、何となくマイルズに似ている、とトウガは思った。 「そういうことでしたら、皆さん、どうぞ馬車にお乗りください」 「え! 良いんですか!」  興奮気味のトウガに、ええ、と返事をしながら、モールは馬車の中の椅子を軽く整える。 「王にすぐ会えるかまでは分かりませんが、掛け合ってみますよ。トウガ様がいらしている以上は、私の立場で無下には扱えませんしね」 「やった! ありがとうございます!」  これで都を騒がせずに済む、と両手を握るトウガ。都の中心を王子として突っ切る工程は、何回やっても苦手だった。その様子を見ていたトビアスとオットーは、本当にタツキさんの息子らしくないな、と口々に話していた。トウガはよく知らないのだが、父はヴィクトルに用があるときは、門番を全員蹴散らす勢いで進んでいたらしい。 「しかし、国王陛下の側近が乗るような馬車とは……」  オットーが馬車の中を覗き込む。そのままトビアスに背中を叩かれ、モールにも手を引かれたので、彼は王子より先になることに戸惑いつつも、一番に馬車に乗り込んだ。中の座椅子の滑らかな手触りに驚いていると、モールが設計にロックも関わっていると口にしたため、オットーは膝から崩れ落ちそうになっていた。
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