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モールが手で示した先を、一同が見る。はためくレースのカーテンの向こうに、一瞬シルエットが浮かぶだけだったが、色素の薄い金髪をボブヘアにしている線の細い人物のようだ。トウガはてっきりメイドだと思ったのだが、その人物が振り向いて、どうやら違うようだと分かった。その感想はトビアスが口にする。
「なんだ、男かよ」
「なんだとはなんだ。初対面で随分な言いようだな」
カーテンを片手で捲りながら歩いてきたのは、白いシャツを肘まで腕まくりしている青年だ。シャツの上にはベストを着込んでいる。出張していたモールに比べるとラフだが、一級品を身に着けていることには違いない。口調は言葉とは裏腹に穏やかで、特に怒っているわけではなさそうだ。サーセン、などと軽い調子で頭をかくトビアス。彼とトウガに、オットーが耳打ちする。
「あの方は、ツカサさんと言います。ヴィクトル王の側近のお一人です」
「あれ、オットーじゃないか。久しいな。父上は達者か?」
「ご無沙汰、しております。父は相変わらずです」
「今でもたまに、おれをからかいに来るんだよ。あの人もほんと物好きだよな。ま、元気なら何よりさ」
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