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1. シャムロック
その瞳はグリーン。
限りなく澄んで、どんな宝石よりも美しい。
フローリスト「シシリー」の飼い猫シャムロックは
いつもカウンターチェアの上に座っていた。
全てのものに興味がなさそうに――猫はみんなそうだ――
小さく欠伸をする。
その特徴であるロシアンブルーの被毛は
上質な生地の様になめらかだ。
欠かさず行われる彼女の手入れのおかげで
身体が動くたびに、波打つ灰色の光沢を放っていた。
その椅子は、シャムロックのお気に入りの場所だった。
「人が座る」という本来の機能は果たしていないが
店で働くスタッフたちは、全く気にしない。
それどころか、猫の機嫌を損ねるのを恐れ
誰も座ろうとしなかった。
温かな日差しが望める日は、いつも店長がその椅子を
店先に移動する。
場所は、吊り下げられているお店の看板のちょうど下あたり。
店に入る通路を挟んだ反対側には、花の妖精の絵が描かれた
大きな本が、やはり椅子の上に立てかけてある。
この2つが花屋のシンボル
という事になっていた。
「カナちゃーん。お花まだー?
あ、はーい、いらっしゃいませ!」
「も、もうちょっと待って下さーい! ひぇー!」
そんな忙しいやり取りも、猫には聞こえない。
外にいる時の彼女はいつも、猫好きの女性や小さな子供に
惜しげなく美しい身体を撫でさせながら
今日も柔らかく、温かい日差しを浴びて
おだやかに寝息を立てていた。
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