2. 野良

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女の手を感じても、彼の(ぶき)は飛び出てこなかった。 寝ている所が陰になっていたので 彼は少しだけそこに世話になることにして、目を閉じた。 何分ぐらい経っただろうか。 「平気?」 耳元で、鈴のような声が聞こえた。 彼は驚いて、ぱっと身を起こした。 今まで見た中で最も美しく、透んだ緑の瞳がふたつ。 こちらを心配そうに見つめていた。 同族の女の子だった。 それもすぐ脇に立っている。 俺は気を失っていたのだろうか? 近づく気配を全然、感じなかった。 「少しは元気になった?」 彼女の首元で、小さなベルがチリンと鳴った。 黒猫は答えるのを忘れていた。 まじまじと目を見開く。 何という綺麗な灰色だろう。 単色(ソリッド)の体毛が、くまなく全身を覆っている。 そして美しい毛艶。 彼の身体にあるような、乱れた様子が一切なかった。 「まあ、いいけれど」 黒猫の答えがないので、彼女は少し不機嫌になったようだ。 湿った鼻を、ツンと鼻を持ち上げた。 「ここ、私のお店なの。あなたがいると花たちが困るわ。 人間たちが怯えて来ないもの」 黒猫は初めて周囲に目をむけた。 確かに色鮮やかな花たちの、喋り声が聞こえた。 なかには自分について、詮索する話題もあるようだ。 「動けるようなら出ていってね…その方があなたの為」     
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