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女の手を感じても、彼の爪は飛び出てこなかった。
寝ている所が陰になっていたので
彼は少しだけそこに世話になることにして、目を閉じた。
何分ぐらい経っただろうか。
「平気?」
耳元で、鈴のような声が聞こえた。
彼は驚いて、ぱっと身を起こした。
今まで見た中で最も美しく、透んだ緑の瞳がふたつ。
こちらを心配そうに見つめていた。
同族の女の子だった。
それもすぐ脇に立っている。
俺は気を失っていたのだろうか?
近づく気配を全然、感じなかった。
「少しは元気になった?」
彼女の首元で、小さなベルがチリンと鳴った。
黒猫は答えるのを忘れていた。
まじまじと目を見開く。
何という綺麗な灰色だろう。
単色の体毛が、くまなく全身を覆っている。
そして美しい毛艶。
彼の身体にあるような、乱れた様子が一切なかった。
「まあ、いいけれど」
黒猫の答えがないので、彼女は少し不機嫌になったようだ。
湿った鼻を、ツンと鼻を持ち上げた。
「ここ、私のお店なの。あなたがいると花たちが困るわ。
人間たちが怯えて来ないもの」
黒猫は初めて周囲に目をむけた。
確かに色鮮やかな花たちの、喋り声が聞こえた。
なかには自分について、詮索する話題もあるようだ。
「動けるようなら出ていってね…その方があなたの為」
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