炬燵地獄

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落ちて行くに従い、浮遊者たちは堕落し切れずに脱落してゆく。いつまでも地に足が着かない自身のあり方に耐えきれなくなるのである。その後、水面までたどり着き社会復帰した者もいれば、少し上昇してから再び落下する者もいる。浮遊者の動きは総じてクリオネのそれに似ている。 緩慢な落下のある層から、浮遊者は減少しなくなる。その層を越えると堕落の海は一際粘性が高く、身体に暖かさの快楽が強くまとわり付く性質に変わる。色は濃厚な橙から、薄い赤へと明確に移行する。極めてなだらかな弧を描きつつどこまでも延びる線を描くこの層からは先へは、快楽への抵抗力のなくなった者か、行くところまで行こうと決めた者しか残らなくなるのである。 俺のような後者はほとんどいない。辺りの浮遊者は皆隈が顔一面に広がったような血色の悪い面に、白いものが混じった髭を伸ばし放しにしている。 景色が赤くなった直後、鈍い光を放つ鱗が視界の隅を通った。鬼がやって来たのである。いよいよ彼らの住みかに俺は足を踏み入れた。 作り物のような怒り顔で、鬼たちは浮遊者たちの周囲を泳ぎ回っている。 鬼の役割は知らない。 我々の監督役なのかも知れないし、我々の捕食者なのかも知れない。 「どうするつもりだ?」 色々と考えている時、明瞭な発音が鼓膜を振動させた。 声の主の方へ首を捻転させると、正直な怒りを含んだ瞳で、鬼が真っ直ぐ俺を見つめていた。
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