炬燵地獄

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質問の真意を捉えあぐねている内に、鬼はこちらの返答を待たぬまま、 「お前、ここに来た意味を分かっているのか?いつまで落ちているつもりだ?お前の生活を立て直す気はないのか?」 と質問を重ねた。俺は困惑の余り黙ったまま相手の表情を見ているだけだった。質問よりも鬼の存在そのものへの問いが先行せざるを得なかったのである。鬼がどのような存在なのかを見た目や言葉からまず割り出さなければ質問の意図を捉えることはできず、よって答えることはできない。返答によっては美しさと狂暴さが同居した肉体に八つ裂きにされないとも限らないのだ。もしかしたら地獄の暖色は浮遊者の血によるものかも知れない。俺は取り敢えず酩酊のフリをして沈黙を保ちつつ、鬼の顔を観察して相手を捉えてやうと考えた。 「作り物のような毘沙門天像の面」という遠方からの第一印象は、間近で接することで覆されつつあった。「ような」ではなく、本当に作られた仮面だったのである。隙間なく皮膚と密着する精巧な造りではあるが、仮面の向こうから人情が滲み出て湯に溶け出している。必死に面で鬼を装っているものの、内側の人間を隠しきれずにいる。そうすると即座に、怒り顔の動機が浮遊者への愛であることが分かる。きっと鬼は、心を鬼にして引き籠り生活から我が子を引き摺り出そうとする母と同義の存在なのだ。 俺は正直に、「物見遊山」だと打ち明けようとしたが、本当の地獄を体験するために、 「もう全てがどうでもよくなっちゃて」 と適当な嘘をついた。もし旅行者であることを言えば部外者だとして追い出される恐れがある。仮にそうじゃなかったとしても、部外者だと線引きされたまま落ちて行けば浮遊者としての本当の体験をし損ねるかも知れない。 不意に放たれた爆音のせいで俺の背筋は緊張し、全身の鳥肌が立ち上がった。急に身が固くなったせいか、口から妙な音の空気が漏れた。 少しして、その爆音が鬼の「馬鹿者」という一喝であることを理解した。 鬼が俺の肩を叩く。 「お前はまだ若いのだから」 叱咤激励する相手の愛を俺は内心煩わしく感じていた。
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