第1章

2/9
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
冬の夕食は鍋物が自然と多くなる。 暖房のついていない寒い部屋であまり手を動かしたくないのもあるけれど、熱い汁を啜っているとだんだん身体がほかほかと温まってくるのが好きだ。冷蔵庫の残り物を楽に処理できるのもいい。昔から計画性がなかった私は、冷蔵庫の野菜やお肉をすぐにだめにしてしまう。 新婚のころは、それでよく夫に注意されていたーー夫の母親は、まめにタッパーに小分けして整理し、きちんと無駄なく使いきっていたとーーけれど、そのうち諦めたのか、なにも言わなくなった。 口煩かった義母も、もういない。 初冬の頃に、肺炎を煩わせて入院し、あっさりと死んでしまった。きっとロクの後を追ったのだろう、と私は思った。ロクが死んで、すぐのことだったから。 義母の家には、ロクという老犬がいた。黒い大きな、威圧感のある犬だ。私は大型犬が苦手だった。昔住んでいた実家の近くにも大型犬がいて、とくに何かされたわけではないけれど、怯えて決して近寄ることはなかった。 義母の家に行くと、いつもロクに睨まれる。何度か餌をあげようとしたこともあるが、私が出したものは絶対に口にしようとしない。私が何かしたのだろうか。可愛げのない犬だ。口には出さないが、ずっとそう思っていた。 ロクは最後まで私に懐くことはなかった。老衰だったという。義母がひどく落ち込んだ様子で電話をかけてきたとき、私は慰めの言葉をかけながら、心の中ではホッとしていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!