第1章

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夫が義母の体調を心配し、これを機に同居しようと言い出した。 私はあまり気が進まなかった。義母とはもともと気が合わず、嫌味を言われることも度々あった。しかし結婚するときに、犬が苦手だという理由で同居を断っていた手前、強くは言えなかった。 しかし、心配する必要はなかった。 気丈な性格だった義母は、ロクを失ったショックでまるで別人のように何事にも気力をなくし、家にいる息子の嫁のことなど、ほとんど関心がないようだった。 そのうちに体調を崩して入院し、月を跨がないうちに、ベッドの上で息を引き取った。 朝、見回りにきた看護師が気づいたときには、すでに息がなかった、苦しんだ様子はなかったと話していた。 夫はひどく落ち込んでいた。もっと早く体調の変化に気づいてやれればと、毎日のように嘆いた。 私は見るに耐えず、きっと大好きなロクと一緒にいるのよ、あっちで幸せに暮らしているわよ、と懸命に慰めの言葉をかけ続けた。 「今日の鍋はお味噌よ。白菜とよく合うの。おいしいでしょう」 「ああ、うまいな」 冬は、向かいあって、鍋をつつくのが冬の楽しみだった。 蓄えもあまりなく、決して豊かとは言えない二人暮らしだけれど、こうして暖かい料理を囲んでいれば、凍えるような寒さも忘れられた。 一緒にご飯を食べ、テレビを見て笑って、一緒の布団で抱き合って眠る。 「うふふ、あったかいね」 「ああ、あったかいな」 「ずっとこうしていたいね」 「そうだな」 新婚の頃より、私たちはずっと距離が縮まったような気がする。 でも夫はどうだろう。 結婚しても、料理も掃除も義母のように器用にできるようにはならなかった私を、どんなふうに思っているのだろう。愚図な嫁だと思っているだろうか、それとも、そんな欠点さえ大きな愛で包んでくれているのだろうか。 そういうことを、無口な夫は何も言わないから、私にはよくわからなかった。
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