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「ここに来た、女の子がそんなふうに自分のことを言っていたんです。春になると溶けて消えてしまうからって」
「…そう。あの子がそんなふうに」
伝えるとおばさんは悲しそうに視線を下げた。その背中をおじさんが優しく摩った。
「ここへ来たのは。君に返そうと思ってね」
左手に吊り下げていた紙袋を掲げたおじさん、自然と視線が向かう。紙袋を渡され中身を見ると俺のジャケットが入っていた。マフラーも、耳当ても、手袋も入っている。
「…あの子は、あの子と、たくさん遊んでくれたようでお礼をいいます」
深くお辞儀をするおばさん。そんなふうにされる義理はなく俺は慌てた。
「顔をあげて下さい。そんな、俺は別に、」
「いいえ。あの子はすごく喜んでいました。おにいさんと一緒に遊んだと。それはもう目を輝かせていました」
あんな些細なことだったのに。彼女はそんなふうに喜んでくれていたのか。
「それで。今、その子は…?」
予感はしていた。けれど聞かずにはいられなかった。
「なにも話さなかったのですね」
頷く。
「あの子は。亡くなった。医者には冬は越すことは出来ないと言われていました」
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