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何処か寂しそうに彼女は雪だるまを見つめた。雪だるまを作ったのなんて何年ぶりだろう。小さな頃は雪にはしゃいだのに、大人になると煩わしいものとなってしまった。
「おにいさん」
「ん?」
靴で雪に円を書いている少女に視線を向けた。
「実はわたし。雪だるまの妖精なの」
「なんだそれ?」
くつくつと笑う。初めて聞いた、雪だるまの妖精。雪だるまの妖精である彼女は円を書いていたかと思えばふたつめの円も書いている。雪だるまか。
「ふふ。雪だるまの妖精なの」
もういちど彼女は繰り返す。
「だから。暖かくなったら溶けていなくなっちゃうのよ」
雪だるまの絵は彼女の足で消されてしまった。俺は胸が痛くなった、そんなことするなと。そんなこと言うなと。
「でも。また。雪が降れば、雪だるまになれる」
「それはもう。同じじゃない」
首を横に振るう。何も言えなくてただ少女を見つめた。
「わたしそろそろ帰らないと。おにいさん手袋と上着ありがとう」
言いながら彼女は手袋を外そうとする。それを手で制した。
「また今度返してくれればいいよ」
少女は少し考えたが、頷いた。もう一度手袋をはめて、顔を上げる。表情から何か読み取ろうと思ったのに、彼女が何を考えているのかよく分からない。
「じゃあ。またね、おにいさん」
俺から離れて、彼女は言う。公園のそとに向けて歩いていく。
「なあ」
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