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「 ‥‥何でそんなに私に構うの? 」
沙紀が、つい先刻どこかで聞いた台詞を白い息とともに吐き出した。
構っているつもりはない、むしろ早くいなくなってくれと本気で思ってる。唇の裏でそう言うと、それならここでさっさと別れればいいと頭のどこかで声が響く。
嘲笑うようなその声に反論して、唇を突き動かした。
「 心配だから、‥‥ひとりで歩かせるのは 」
月明かりに照らされた沙紀の顔が歪んだ。
泣くんじゃないかと焦り、彼女の方に手を差し伸べて、その手をまた引っ込める。
「 仲本、狡い‥‥ 」
俺を見上げる彼女の瞳は、どこまでも澄んでいて、灰色の冬を彩る一際尊い色を称えていた。
返答に窮した俺は、逃げるように目を伏せる。
「 もう、‥‥いっそ私の中から消えて欲しい 」
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