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湖畔のチャペル
水色の色画用紙に白の絵具をチューブから直接塗りつけたような雲の浮かぶ、そんな嘘みたいな青空だった。
小さなチャペルから、真っ白なウエディングドレスを着たママとあの人が腕を組みながら出てきた。外で待っていた大人たちは、「おめでとう」と言いながら花びらをまいている。今日、ママが結婚した。私はママの一番じゃなくなったのだ。
誰だかほとんど分からない大人達が楽しそうに話をしている中、私は一人誰もいない場所へと歩いて行った。そこには魚のいない小さな池があって、くもった鏡のようにぼんやりと私の姿を映していた。普段は着ない白のブラウスにブルーのジャンパースカート。顔ははっきりとは映らないが、きっとつまんなそうな顔をしている。
「やぁ」
声に驚いて、私は辺りを見回した。建物の影から聞こえたような気がした。強すぎる太陽の光のせいで影は真っ黒に塗りつぶされてよく見えなかったが、目を凝らすと男の子がうずくまっていた。私と大して年の変わらないくらいの子だ。私を見てにっこりと笑っている。
「そんな浮かない顔をして、どうしたのさ」
「ママが結婚しちゃったの」
「嬉しくないのかい?」
私は何も答えられずにうつむいた。
「嫌なら、嫌って言えばよかったのに」
「言えるわけないじゃん」
嫌だった。突然知らない人が家の中に入り込んできて、「新しい家族だよ」と言われて、すんなりと受け入れられるはずがなかった。ただ、仕事に家事と休みなく働いて、いつも疲れた顔をしていたママが、あの人の話をする時は、とても楽しそうな顔をしていたんだ。だから私は何も言えなくなった。
「ママは私よりあの人の方が好きなの」
言葉にしたとたん、涙があふれそうになった。不安で息が苦しくなる。
「なら君も新しい家族に取り変えちゃえばいいんだよ」
男の子はすくっと立ち上がり、私の手をつかんだ。
「こっち」
私は男の子に手を引かれるままに、暗い影の中へ入った。しばらく進むと、また明るい場所に出た。目がくらんで、一瞬何も見えなくなった。
「ほら見てごらん」
目が慣れ、少しずつ見えるようになると、そこはさっきまでいたチャペルの庭先とは違う不思議な場所だった。
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