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違うのだ。私が欲しいのは新しいママじゃない。理想のママじゃない。今まで私を
育ててくれた、たった一人しかいないママの……
ママの声がした。私の名前を呼んでいる。
「ママー!!」
ママの声がする方へ私は叫んだ。ママがいた。白いドレスをたくし上げて、凄い形相で走ってくる。そして、私に飛びかかるように抱きついた。
「なんだ、探してもらえるんじゃないか」
男の子の低い声に振り向くと、そこには湖が広がっていた。なだらかな丘も、かわいい家も、ママ候補や男の子も何もない。私はひざまで湖に浸かって立っていた。
ママは泣いていた。そして怒っていた。真っ白だったドレスは、泥と水で汚れてしまった。
帰る少し前に、あの人と二人きりになった時があった。あの人は言った。
「危ないことをしてはいけないよ。取り返しのつかないことになるかもしれないし、ママだって悲しむんだ。君はママの一番の宝物なんだから」
私はあの人の顔を見た。しっかりと顔を見たのは初めてだったかもしれない。
「みんなには内緒だよ。本当は一度振られたんだ。娘が一番大切だからあなたが一番になることはないってね。僕はそれでも良いって返したよ。ママが幸せなのが僕の幸せ、ママは君が幸せな事が一番幸せだから。だから、もし君に何かあったらママも悲しむし、僕も悲しむんだよ」
思ってもなかった事だった。私はまだママのそばにいてもいいのだと思ったら、涙がぽろぽろと目から流れ出た。仕方がないので、秘密を守ってあげようと思った。
帰りの車の中。湖が見えた。風に揺らされた水面がキラキラと眩しく輝いていた。
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