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「お客さん、靴は、履いたままで、いいですよ」
さっきの駅長さんがやってきて、俺の靴とサンダルを指差した。
「パスポートは持ってきてませんよ。だから靴を脱がなきゃ」
友人Sが東京はパスポートなしでもいいが、土足厳禁だといったのだ。東京の人は綺麗好きだから、汚すとものすごく怒ると、注意された。
「土足で大丈夫ですよ。ほらみんな靴のまま乗ってるでしょう」
「彼らはパスポート持ってるから、土足なんじゃないんですか?」
「パスポートは関係ありません。東京は日本です。ジャパンです。観光じゃないんですか」
「観光です。浅草寺と花やしきと、新宿御苑にいくつもりでした。あと武道館」
駅長さんは俺のことを頭の先から、つま先まで舐めるように見た。
「東京に知り合いはいますか」
「本当は今朝はやくののぞみに乗る予定だったんです。でも寝坊して、オムライス食べて、足をくじいて、順番が違うかもしれないけれど、それでアミューズメントみたいに緑の窓口で並んでいたら、遅れてしまって。友人のSがもう東京に着いていて多分、今頃渋谷のスクランブル交差点にでもいると思います。もしかしたら八王子にいるかもしれないけれど」
八王子でよかったかな。四天王寺は大阪だから。倍でよかったと思う。
「Sさんはとにかく今朝ののぞみで、先に東京に行ったんですね。あなたは寝坊して、いろいろしてたらこの時間になった。そういうことですね」
さすが駅長さんになるぐらいだから、頭がいい。見事な解説だ。
「その通りです。頭がいい。あなた。一緒に東京行きませんか?」
この人といっしょなら、俺も難なく東京につけるだろう。そして東京という街を余すことなく堪能できるだろう。
「申し訳ございません。職務中なのでご同行できません。それでは失礼させていただきます」
駅長さんが立ち去りかけたので俺は慌てて止めた。
「ちょっと、待って。ビーフ、オア、チキン?」
一瞬駅長さんは立ち止まったが、俺の質問を無視して大股でその場をたちさった。
俺は恐る恐る靴とサンダルを履き新幹線に乗った。とにかく疲れていたので、入って一番近くの空いてる席に座った。
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