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俺はシートを汚さないように、時々怪我の部分を舐めた。血の味が口の中で、広がって嫌な感じだったが、タクシーのシートを汚すのは悪い気がして時々運転手さんにティッシュをもらい、口に溜まった血をティッシュに移した。
「着きました、お客さん」
俺が怪我と格闘している間に車は新大阪駅に着いた。俺は初めて新大阪駅を見た。長い駅だ。これが全部駅なのだろうか。何かしらのプロムナード的な小道があるのだろうか。お土産やさんでお土産を買おう。
「お客さん、降りないんですか」
考え事をしていたので、降りるのを忘れていた。お金を払わないといけない。お金を払って降りた。なんだか無愛想な運転手で、ニコリともしない。よくそれで接客業が務まるものだ。
俺はとりあえず新大阪駅でお土産を物色することにした。何がいいだろう。大阪のお好み焼き、たこ焼きをモチーフにしたものや、神戸牛、丹波栗など関西一円のお土産が並んでいた。
電話がかかってきた。
「ホテル着いたけど今どこ?」
Sからだった。
「今、新大阪駅。お土産見てるねん。俺、初めて新大阪駅に来たから、新大阪駅土産もいると思って。なにがええかな」
やっぱり消えもんがええよね。木刀とか買っても、俺剣道部ちゃうし。チェ・ゲバラのTシャツ買ってもキューバはもうカストロ体制やから。だからといってJFKのTシャツ着るのもミーハーやと思われたら恥ずかしいし。
「新大阪駅で土産は買わんでもいい。こっちで買ったらええやないか。地元の土産買うやつは、あんまりおらんで。早う新幹線に乗って、こっちに来て合流しようや」
Sはせっかちなのか、土産を諦めろという。まあいい。自分用の土産だから。諦めても問題ないだろう。
えーっと、それで新幹線に乗るのよね。切符はどうするんやろう。この乗り過ごした切符ってどうしたらええのかな。
「すいません、新幹線乗り過ごしたんですけど、この切符ってどうしたらいいですか」
「すいません、駅員さんに聞いてもらっていいですか。お土産やではそういうことは、あんまりくわしくないもので」
なんや、お土産やでは切符は扱ってないのか。和菓子でできた記念切符とかあったら、みんな買いそうやのに。
駅員さんがいたから声をかけた。
「すいません、新幹線の切符をどうしたらいいですか」
「はあ?切符をどうしたいんですか」
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