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「どうしたいんでしょう?東京のホテルでみんなが俺を待っているような気がするんです」
「じゃあ、その切符で新幹線に乗って東京に行かないとあかんのじゃないですか」
「なるほど、僕は思い出に残るんですね。東京で。ロマンティックだったらいいのに」
スカイツリーの展望台で、夜空と東京の街並みを見下ろす自分を想像して、思わず泣いてしまった。
「ところで何を注文します」
「何をって東京までの切符やんか」
「うーん、とうちはオムライス専門店なんで、切符はやってないんですよね」
「じゃあ、あんたは誰」
ソフト帽と白いシャツに紺色ののネクタイ、どう見ても駅員でしょう。
「オムライス専門店オムモム新大阪駅店店長の西田です」
「店長さんさ、駅長さんと知り合いじゃない?」
「見たことないですね。駅長さんは。もしくは見たことあるかもしれないですけど、気づかないでしょうね」
「じゃあ、デミグラスハンバーグオムライス一つ大盛りで」
俺はテーブルに座り、オムライスが出てくるのを待った。いつまでたっても東京に行けそうな気がしない。せっかく新大阪駅までたどり着いたのに、切符を買うこともできない。なぜかオムライスを食べることになって、ナプキンで包まれたスプーンが昭和な感じで不思議だった。
電話がかかってきた。Sからだった。
「どうだ、新幹線には乗ったのか」
「いいや。新大阪駅でオムライスを食べる羽目になって驚いてる」
「いや、驚いてるのはこっちや。なぜオムライスを食べてるのだ。早く新幹線に乗れ」
「いや、乗りたいのはやまやまなんだけど、駅員さんと接触できない」
「切符売り場って知ってるか」
「なんやそれ、アミューズメントか」
「逆にアミューズメントってなんやねん。切符売り場は切符売ってるところ。そこで乗り越した切符見せて、どうしたら次の新幹線に乗れるか聞くねん。切符売り場。緑の窓口。わかった?」
「そうなんや。切符売り場みどりの窓口に行くねんな。わかった」
俺はオムライスを堪能した。ハンバーグの肉汁がたっぷりで、オムモムっていう店の名前を覚えとこうと心にメモした。
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