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ゴミステーションで拾った掃除機の、奇妙で気味の悪い現象に翻弄された村本卓の記録のあらましを説明した。美穂は鼻の先でせせら笑うような相槌を打ちながら聞いてくれた。明らかに本気にしていないが、事情を説明しないわけにはいかなかった。
「それで浩ちゃんはどうしたいわけ?そんな話でさ、行方不明だからって警察に届けても相手にされないよ」
美穂は咎めるような声をだした。
「そうだな」私は認めざるを得なかった。「だけど探さないわけにはいかないよ。実際、村本とは別にもうひとり行方不明者が出ているしね。おれはヒントになりそうなものを探す」
「もうひとりいるって、掃除機の前の持ち主のことね」
「そうだ」
「見つからなかったらどうするの?」
「頼みがある」私は掃除機を引き寄せながら言った。「都市伝説の中に掃除機のカテゴリーがあるかどうか調べてみてくれないかな」
「はあ? なにそれ。いいよ、わかった。浩ちゃんの遊びにつき合ってあげるよ」美穂はあっさりと承諾した。「だけどさ、こういった類の話には深入りしない方がいいと思うよ。気をつけてね」
わかった、充分に警戒するよと言って、私は電話を切った。
あらためて掃除機を観察した。
まともな製品ならメーカー名と製造ナンバーが、どこかに刻印されているはずである。私は胴体やホースを上下左右から探した。胴体の下部に文字の擦れた灰色のプレートがあった。アルファベットにも見えたが、異質の記号のようにも見えた。メーカー名でも製造ナンバーではなさそうな気がした。
私はケータイのカメラ機能を使って、あらゆるアングルから掃除機を撮影した。集塵タンク、ホース、吸い込み口、キャスター。
撮影した画像を再生した。
幽霊のようなモノが写っているのではないかと考えたのだ。
だがいずれにもそれらしきモノは写ってはいなかった。
今度はスイッチを入れてみた。
靄のような影が排気ガスのように立ち昇って、瞬く間に私にまとわりついた。私は掃除機には手をいっさい触れないようにしてシャッターを押し続けた。
掃除機のスイッチを切るとその影は見えなくなったが、今度は、間違いなく背後から視線を感じた。背中から腹部へ突き抜けるような疼痛だった。
床にもう一つの別の影がはっきりと伸びていた。肉眼ではとらえることのできない未知のおぼろげな塊りは、確かにそこに存在している。
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