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沈黙の威嚇のような気配を感じた。そいつはじっとして動かず、ひたすら私の動きを凝視しているようにも思えた。
そいつの正体を撮影してやろうとケータイを構えた時、再び、着信マナーモードが震えた。
美穂からの連絡だろう。何か分かったのかもしれない。
「・・・っ!?」
表示された発信元は美穂の電話番号ではなかった。
<公衆電話>
まさか、村本か。
心臓がどきんと跳ね上がった。
バイブレーションが途切れることなくなり続いている。
「もしもし!」
私は電話アイコンを押した。
「あ、五十嵐か。おれだ、村本だよ!よかったあ、つながって」
遠くから村本の声が伝わってきた。私は安堵のあまり、体中の力が抜けていくのを覚えた。
「心配かけやがって。おい いったいどうしたっていうんだ? おれは、今、お前の家で掃除機とにらっめこの最中だよ! そっちはどこにいるんだ?」
「掃除機とにらっめこか。そいつはいいや、ははん」村本は鼻先で嗤った。「電話がつながってよかったよ。おれを助けに来てくれ。っていうか迎えに来られるか」
「迷子になっちまったのか」
「迷子とえば迷子だけど・・・」村本のトーンが急に落ちた。暗い表情がわかるような声である。「場所の見当すらつかないんだ。ここは砂漠みたいな場所だ。辺りいちめん砂だらけで、道路が一本あるだけだけでよ」
「はあ? 言ってる意味がよくわからないんですけど」 私はケータイを持ち替えた。「ゴビ砂漠とかサハラ砂漠。それとも鳥取砂丘か」
私は皮肉をたっぷり込めて言ってやった。
「ふざけてるつもりはないよ、マジでここがどこかわかんないんだよ!」
「わかった。公衆電話からかけているんだったら、そこの電話番号がどこかに書いてないか。市外局番が分かればどのあたりか察しがつくから」
「ちょっと、待ってくれ・・・」電話口の向こうでがさがさと風が荒れる音が聞こえた。「いや、ないよ、そんなの」
「どうしてそんな羽目になったのか、心当たりは」
「お前ンとこへの連絡がみんなエラーになってさ、とりあえず、家に帰ってシャワーでも浴びてそれから出直そうと思った」
「ああ、確かに服が散らかってたぞ」私はバスルームの方角を眺めた。「それでどうした?」
「シャワーを浴びていたらリビングから物音が聞こえた」
村本は裸のままバスルームをそっと出て様子を覗うと、黒い煙が見えたのだという。
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