電池掃除機

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「そうだな」  村本が苦笑いしながら立ち上がった。  玄関のドアを開けるとオレンジ色の西日がすっと差し込んだ。村本のアパートの玄関は西側に面しており、春から夏にかけては西日が強いと言っていたことを思いだした。  長く黒い影法師が室内の奥までのびていく。  私はあっと声を上げそうになった。  私と村本のほかにもうひとつ別の影が伸びていたのだ。それはぼんやりと靡くけむりのような、それでいて人の形をしていた。  二人ではなく三人の影。  ゾッとする冷たいものが、私の内部を貫いた。  村本の背後に、肉眼では見えない何者かがいて、そいつの影だけが室内に映っているのだろうか。奇妙な掃除機と関係しているのか、それとも陽射しの加減による物理的な現象? 「どうかした?」  村本が怪訝そうにたずねた。   「いや、なんでもない」  私は眼をしばたいて平静をとりつくろった。まだ酒が抜け切れていないか、西日の悪戯だろうと都合よく解釈した。  村本はもう一つの影に気づいた様子はなく、そのまま私を外まで見送ってくれた。  
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