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浴室の次は、居間兼寝室。
閉まっているドアをそっと開け、室内をのぞいた。
村本のきれい好きな性格からして荒れているとは考えたくなかったが、当てははずれた。
毛布がしわくちゃになったベッド。メモ紙とUSBメモリが散らかったパソコンデスク。収納箪笥からは衣類がはみだしてあふれていた。テレビはひっくりかえってディスプレイが天井側に向いていた。カーテンは半開きになっており一部がカーテンレールからはずれている。
あまりのひどさに私はうめいた。
そのとき足元に何が触れた。
床に落ちた、まだ動作中のスマートフォンだった。
試しにアプリケーションのメール履歴をタップしてみると、私の着信履歴がごっそりでてきた。
村本は着信履歴アドレスへ直接返信を試みたようだ。しかしことごとく発信error表示なっている。一見するとスマホの不具合みたいだが。
私は村本が書きこんだメールを開いてみた。何か分かるかもしれないと思ったのだ。
<例の掃除機のことで、折りいって相談したいことあり。至急連絡を待つ。村本卓>
これは昼間私が受け取ったメール。これに対して
<了解 日時と場所の指定を>
と、私は返信していた。この返信に村本はすぐに返事を飛ばしている。
<飯田橋のいつも居酒屋で今度の金曜日の夜八時でどうか>
私はこのメールを受信していなかった。文面には続きがあった。
<信じられないないだろうがあいつは生きている。あいつは黒い煙みたいに掃除機から出て来る。こんな馬鹿げたこと誰も信じてくれないから、お前に相談するしかない 助けてくれ>
彼はこの同じ文面を何度も送信しているが全て未送信になっている。
私は自分のケータイを取り出して、眼の前にあるスマホに電話をかけた。
スマホが正常ならば普通に着信するはずだ。
が、ピクリとも動かない。
その一方で私のケータイには<只今電話にでることができません・・・>のメッセージが流れた。
やはりスマホが故障しているのか。
未だ事件じゃない、事件じゃないと私は自分に言い聞かせながら、友人を探しだす方法を考えた。
私の視線はメモ用紙とメモリが散乱したパソコンデスクに釘づけになった。
村本がヒントになりそうなデータをインプットしているかもしれない。
祈る気持ちでノートパソコンの起動ボタンを押した。
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