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運か肝か
中学の同級生に、だいちくんという男子がいました。
彼は、学校に行く前に新聞配達のアルバイトをしていて、午前4時に始まるため、毎朝3時起きだったそうです。
大きな坂の上に住んでいただいちくんは、暗く寒い深夜、毎日自転車で配達先に新聞を取りに向かっていました。
その道中に、事故が多発することで有名な道がありました。
下り坂の途中にあらわれる、向こう側が見えないほどの急カーブで、だいちくんはいつもその道だけは、スピードを落とし気をつけて通っていたそうです。
ある日、その危険な急カーブの手前の道のど真ん中に人がいたそうです。
月明かりと、遠くの街灯に照らされて、ぼんやりと浮かぶ影に目を凝らすと、それはキャップを被り背を丸めた姿のおじいさんのようでした。
おじいさんは、だいちくんの進む方向に対して、体ごと横を向いて白線の上に身動きせずに立っていたそうです。
だいちくんは、
(いくら車が来ないからって、あんなところに立っていたら危ないなあ)
そう思いつつも、午前3時に道の真ん中に突っ立っている人間に声をかける勇気が出ませんでした。
だいちくんは、横を向いているおじいさんの背中側を走り抜けました。
すると、おじいさんはだいちくんが真後ろに来た瞬間
大声で
「ハズレッ!!」
と、叫んだというのです。
突然の老人の叫びに、だいちくんは驚いて転びかけたそうです。
なんとか体制を立て直し、だいちくんは逃げるようにその場から走り去りました。
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