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その昔、一人の貧しい家に生まれた少女と一生成長しない呪いにかかった少女の話をしよう。
少女の名前はメアリーといった。
この世界では全てが売買される。それこそ技術も、思い出も寿命も、名前ですらも。
メアリーに姓などなかった、遠い昔に既に売られてしまったからだ。両親は病にかかり、その先短いと悟れば直ぐに残りの寿命を売り、メアリーにその金を渡した。
しかし、そんな金すらも底を尽き…。両親の教えである「せめて生きろ。生きればなんとかなる」という教えさえも捨てるしかない。
廃れた死臭の蔓延する街の唯一の汚れた川に立ち、せめて綺麗な川がよかったな…と呟き、地面から足を離した。
そんな中期待を裏切るように響いた幼さの残る高い少女の声。
「コマンド!魔法を選択。浮遊術を発動!!!」
水面が大きな音を立てる寸前にメアリーの体は宙に浮く。
声のした方には森がある。深い、とても深い森が。その向こうには一般的な街があり、さらにその向こうにある森の向こうには富裕層の街がある。
森の方から黒い服に身を包んだ黒い髪の少女が出てきた。
「全く、数千年ぶりに街に来てみれば…こんなにも身分の差が開くとはね…。奴には説教しなくちゃなぁ。」
その閉じられた目を開けば真っ赤な紅玉のような瞳がメアリーを睨む。
「コマンド、魔法を選択。対象物移動。浮遊中の少女を選択し、手前へ。」
そう彼女が唱えるとメアリーの体は河岸に立つ少女の目の前へ引き寄せられた。その途端、メアリーに怒声が浴びせられる。
「あんた、若いのにそんな勿体ないことすんじゃないよ。せめてもっと綺麗な川にするか、森に入るかにしなよ!」
その瞬間、堪えたものが噴き出すようにメアリーは自身の境遇、弱音を吐き出した。彼女は何も言わず、しっかりと聞いていたが。そしてひと通り吐き出し終えたメアリーは唐突に恥ずかしくなり、顔を俯かせた。
「あんた、メアリーと言ったね。この国を変えようと思わないかい?あたしゃ森の奥で服屋をしてるんだ。聞くところ身一つじゃないか。うちにおいでや。」
彼女はメアリーにそう言った。
メアリーは迷わず答えた。
「お願いします。」
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