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私は書き終わったばかりの履歴書を手に持った。
職務経歴書、保有資格、志望理由……隙間がないことを確認して、クリアファイルにしまう。
学生の頃、白は希望の色だった。
「真っさらなキャンバスのようなあなたたちには、無限の可能性があります」
「真っ白なキャンバスに、自分の人生を描きながら、歩いて行ってください」
大人たちの望んだ通り、私たちは、真っ白なキャンバスに各々自分の色を塗っていった。
「それで、あなたはこれまでどんな仕事をしてきたのですか?」
「あなたはどんな人なのですか?」
「人生で成し遂げたことがありますか?」
面接官は苛立ったように、容赦なくキャンバスにつけた色を、理由を問う。
わからない。
塗りつぶしたはずなのに、なぜまだ、白いのか。
「もう、別れよう」
恋人との別れを経験するたび、私はキャンバスをまた白に戻していく。
なにを間違えたのだろう。
なぜまた、白に戻っていくのだろう。
学生の頃、黒は絶望、白は希望の色だと思っていた。
黒は厳しいが、安らぎがある。塗りつぶした私の形跡が、私の人生が紙に生々しく残り、苦しみも痛みも、確かにあったのだと安心させてくれる。
白は高潔で、いつも正しく、正しく、私を否定する。
真っ白な自分、なにもない自分。
真っ白な履歴書も、思い出のアクセサリーもゴミ箱に捨て、私は部屋の電気を消した。
希望の白が、怖い。
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